資本主義の現在と未来 日本を襲う強欲株主⑤ 買収防衛は時代遅れか

「買収防止策の継続は、今や時代に逆行した方策であることは明白であり、市場からの規律を働かせる観点からも廃止すべきです」
アクティビスト(物言う株主)のグローバル・ESG・ストラテジー(GES、本社・英領グランド・ケイマン島)は、自動車部品の製造販売などを手掛ける日邦産業(本社・名古屋市)の6月の株主総会で、同社の買収防衛策をそう論難しました。
GESは、シンガポールに拠点を置く投資運用会社、スイス・アジア・フィナンシャル・サービシズが運営する投資ファンドです。環境や社会に配慮した経営を意味するESG投資をうたっています。
タックスヘイブン(租税回避地)として知られる英領グランド・ケイマン島。GESの本社は同島にあります=2008年8月11日、西村央撮影
生殺与奪を握る
すべての会社は、経営者と労働者に加え、顧客、銀行、地域の自治体や住民など、多くの利害関係者を抱えています。しかし、「会社は株主のもの」と考える株主資本主義のもとでは、過半数の株式を取得するなどして支配権を握った株主が、会社の生殺与奪権を握ることができます。会社を乗っ取った投資家が、短期的な利益を上げるためだけに資産売却などに走る略奪的行為が、たびたび問題になってきました。
買収防衛策を導入する上場会社は、アクティビストによる敵対的買収が問題となった2000年代初頭に600社近くまで急増した後、近年は200社台半ばへとほぼ半減しています。巨額の資金を運用し、多くの会社の大株主となっている生命保険会社や信託銀行といった機関投資家が、アクティビストとともに買収防衛策廃止へと圧力をかけているからです。”会社経営者が自らの保身のために、株主にとって魅力的な買収提案を拒否する手段として買収防衛策が使われている”との理屈です。
情報提出求める
実際の買収防衛策はどのようなものでしょうか。
冒頭の日邦産業は、09年に買収防衛策を一度廃止した後、19年に大規模買い付けに遭い復活させた経緯があります。同社は今年の株主総会招集通知でA4判用紙30ページ近くにわたって買収防衛策の意義を詳述しています。要約すると次のようになります。
-日邦産業は大規模買い付け自体は否定しない。ただし、大規模買い付け者の中には、短期的利益だけを目指し、企業価値や株主共同の利益を損なうものがいる。現在の金融商品取引法に頼るだけでは、不適切な大規模買い付けは防げない。
ー顧客の必要に応じた商品開発のため、日邦産業は多くの顧客から技術などに関する機密情報を預かっている。不適切な大規模買い付け者への支配権の異動は情報流出の懸念を高め、顧客との良好な関係を損なう。そうした懸念から顧客が機密情報を引き揚げれば、日邦産業の競争力が低下する。
ー大規模買い付け者は、自らの氏名、住所、事業内容、大口出資者、国内連絡先などを記入した「意向表明書」を提出しなければならない。その後、日邦産業が改めて求める情報ー買い付け者の沿革、資本構成、事業内容、役員の氏名および職歴、買い付けの目的、買い付け後の経営方針、事業計画、資本政策、配当政策、日邦産業従業員や取引先、顧客、地域社会など利害関係者の処遇方針などーを提出しなければならない。
顧客の機密情報の流出を防ぎ、会社の競争力を維持するためとの日邦産業の説明には、説得力があります。また、同社の買収防衛策の基本は大規模買い付け者の素性と目的、労働者や地域の扱いを明らかにさせるものです。買収防衛策の廃止を提案したGESが、社名通りESG投資を指針とする会社であれば、反対する理由は無いはずです。
しかし、富裕層や機関投資家などから巨額の資金を集め、狙いをつけた会社に揺さぶりをかけることを生業(なりわい)とするアクティビストにとって、素性を明らかにすることほど不都合なものはありません。
GESが6月に別の会社の支配権をめぐって起こした事件は、日邦産業の買収防衛策がアクティビストの問題点を的確に突いていたことを浮き彫りにしています。東京コスモス電機、経営陣”全員退場”事件です。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2025年8月7日付掲載
買収防衛策の廃止を提案したGESが、社名通りESG投資を指針とする会社であれば、反対する理由は無いはずです。
しかし、富裕層や機関投資家などから巨額の資金を集め、狙いをつけた会社に揺さぶりをかけることを生業(なりわい)とするアクティビストにとって、素性を明らかにすることほど不都合なものはありません。